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延焼シミュレーションモデル

1.既存延焼シミュレーションモデル

4系統に整理できる

① 東京消防庁・消防研究センター系

現在、実務で広く利用されている延焼シミュレーションモデル群であり、市街地延焼シミュレーション、地震火災被害想定、地域防災計画策定、消防活動支援システムなどで活用されている。

特徴は、建物から建物への延焼時間を計算する点にある。入力として建物構造、建物間距離、風速、風向等を与え、各建物の着火時刻や焼失時刻を計算することで、時系列の延焼状況を予測する。

消防研究センターで運用されているモデルでは、東京消防庁が開発した1989年の延焼速度式を基礎としており、風速補正、時間差出火、延焼阻止線などを考慮することができる。また、実務利用を前提としているため、計算速度を重視し、建物構造を木造・耐火造に単純化し、階数を2階建て固定とするなどの近似が用いられている。

② 浜田式・堀内式の経験式

戦後の大火事例や市街地火災事例の分析から導かれた経験的な延焼速度式である。
入力として、木造率、建ぺい率、風速などの地区特性を用い、火災前線が単位時間当たりにどの程度進行するかを推定する。建物単位の延焼を計算するのではなく、地区全体としての延焼速度を推定する点に特徴がある。

大火事例から導出された経験式であるため、飛び火や火炎の相互作用などの影響が統計的に含まれている可能性がある。

計算が容易であり、広域被害想定や概略評価に適しているが、個別建物の焼失過程や延焼経路を再現することはできない。

③ セルオートマトン(CA)

空間を格子状のセルに分割し、各セルに「燃焼中」「未燃」「焼失」などの状態を与え、隣接セルへの伝播を計算するモデルである。

入力として、風向、風速、土地利用、建物密度などを与え、近傍セルへの延焼確率を計算する。

実装が比較的容易であり、大規模な市街地を高速に計算できることから、多くの研究で採用されている。

一方、格子ベースのモデルでは建物形状や道路形状が単純化されるため、建物単位の精密な延焼表現には向かない。ただし、近年では建物ポリゴンやネットワークモデルと組み合わせた発展型も提案されている。

④ パーコレーション

パーコレーションモデルは、都市や地区を「燃え広がり得る要素の連結構造」として捉えるモデルである。建物またはセルをノード、建物間の延焼可能性をリンクとして表現し、一定の接続確率または延焼可能条件を与えることで、火災が局所的にとどまるか、地区全体へ連結して拡大するかを評価する。

このモデルの特徴は、個々の建物間の詳細な延焼時間を求めることよりも、「延焼可能な経路がどの程度つながっているか」を評価する点にある。木造建物の密集、狭い隣棟間隔、道路や空地による分断、耐火建物の配置などは、延焼ネットワークの接続性を変化させる要因として扱うことができる。

特に重要なのは、ある条件を超えると延焼範囲が急激に拡大する臨界現象(Percolation Threshold)を表現できる点である。木造率、建物間距離、風条件、同時多発出火などの変化によって、局所火災が大規模火災へ移行する条件を分析することができる。

また、ネットワーク解析との親和性が高く、延焼を媒介する建物、延焼拡大を阻止する建物、地区全体の延焼連結性を支配するボトルネック建物の抽出に利用できる。

一方で、火炎、放射熱、飛び火、煙流動、消防活動などの物理過程を直接表現するものではなく、延焼時間の再現性にも限界がある。そのため、実務的な延焼予測モデルとして単独利用するよりも、建物間延焼モデルやセルオートマトンモデルと組み合わせて、地区の延焼構造や脆弱性を評価する補助的手法として利用されることが多い。

2.PLATEAUから建物構造を取得

建築物モデル:CityGML形式 をダウンロードする(LOD1があれば充分)
※23区では、1区あたり1GB以上の大きさになるので注意

Zip(圧縮ファイル)形式なので、ダブルクリックで解凍する。
フォルダ内、udxフォルダ>bldgフォルダ内に3次メッシュ(1km四方)ごとに、gmlファイルが保存されている。

Plateau for Unity SDKを使えば、Unity上で選択範囲を決定してシーンに配置することもできるが、場所がわかっていれば、3次メッシュの番号のgmlから構造データを取り出せる。
Unityでシーンにインポートした場合、次図のイメージ:

3.建物構造データの取得と木造度補正

延焼シミュレーションの精度は、建物ごとの「燃えやすさ」をどう設定するかに大きく依存する。 PLATEAUには建物構造コードが収録されているが、そのまま使うと実態と大きく乖離するため、補正が必要である。

(1)PLATEAUの構造コード

使用すべき属性は uro:KeyValuePairAttribute の key=100「建物構造コード」。 fireproofStructureType や buildingStructureType は防火造と木造を区別できないため不可。

コード構造種別構造補正係数 C
11耐火構造10.0(延焼源にならない)
12準耐火造7.75
21防火造2.0(→ 用途別に補正)
22木造1.0
0 / 99不明高さから推定(後述)

(2)構造コードと実態の乖離 ― 葛飾区の事例

葛飾区の4メッシュ(17,513棟)でPLATEAU構造コードを集計し、 葛飾区家屋実態一覧表(令和7年・葛飾都税事務所)と比較した。

計算方法木造率
PLATEAUコード22(木造)のみ4.8 %
コード21(防火造)+22(木造)合算56.1 %
葛飾区統計書(令和7年)73.2 %

▲ 木造コードのみでは実態の1/15にすぎない

用途別に見ると乖離はさらに明確になる。

用途PLATEAU(木造のみ)PLATEAU(防火造+木造)統計書(R7)
住宅(専用)5.9 %69.5 %89.4 %
共同住宅1.6 %32.7 %46.4 %
店舗等併用住宅2.9 %55.5 %48.1 %
工場3.7 %36.4 %29.5 %

▲ 「防火造+木造」合算でも住宅で約20pt差が残る。用途によっては合算が過大にもなる(店舗・工場)

(3)なぜ乖離が生じるか

建築基準法第62条(準防火地域)の規定により、 2階建て以下・延床500㎡以下の建物は外壁を防火措置するだけで合法となる。 実態が木造軸組であっても、PLATEAUには「防火造」として記録される。 東京23区はほぼ全域が防火・準防火地域の指定を受けており、 この乖離は都市部全域に共通する構造的な問題である。

葛飾区サンプル(建物ID: 13122-bldg-40125)
独立住宅・2階建て(実測高さ 8.7m)・準工業地域・準防火地域 → PLATEAU上は「防火造

(4)補正しないと何が問題か

建物間の着火時間 T は以下の式で計算される。

T = ( d × C ) / ( Yd × r(u) )
 d:壁面間距離、C:構造補正係数、Yd=0.45 m/分、r(u):風速補正

実態が木造(C=1)の建物を防火造(C=2)として計算すると、 着火時間を最大2倍長く見積もることになる。

⚠️ これは「危険側」の誤り
延焼が遅いと計算される → 対策が手薄になる → 実際には早く延焼する

(5)木造度補正の手順

防火造に分類された建物に、用途別の木造率を木造度 w(0〜1)として付与し、 構造補正係数(C)を連続的に補正する。

C = 10 − 9w
 純木造(w=1.0)→ C=1.0 / 耐火(w=0.0)→ C=10.0

Step 1.自治体統計書(都税事務所)から用途別木造率を取得する

Step 2.PLATEAU建物の用途コードを統計書の分類に対応付ける

Step 3.木造度 w を付与し、C = 10 − 9w で補正係数を算出する

葛飾区(令和7年)での結果:

用途(防火造)木造度 w補正後 C参考:補正なし
専用住宅0.8941.95C = 2.0(固定)
共同住宅0.4645.82
店舗等併用住宅0.4815.67
事務所0.2028.18

同じ「防火造・専用住宅」でも自治体によって補正係数が異なる点に注意が必要である。

自治体専用住宅の木造率(統計書)木造度 w補正係数 C
世田谷区(2023年)77.9 %0.7793.0
葛飾区(2025年)89.4 %0.8941.95

▲ 葛飾区の専用住宅はほぼ木造と同等の補正係数になる

(6)構造不明建物の補完(高さによる推定)

構造コードが不明(0/99)の建物は、建物高さから構造を推定する。 PLATEAUの measuredHeight は屋根最高点(棟)までの計測値であり、 勾配屋根の2階建て木造・防火造では8〜9 mに達する事例が多い(世田谷区実データで確認)。

高さ推定区分割り当て構造
≤ 9 m1〜2階防火造(→ 木造度補正を適用)
9〜13 m3〜4階準耐火
> 13 m5階以上耐火

▲ 9m閾値の根拠:世田谷区の実防火造9,095棟のうち98.7%が9m以下

まとめ:延焼シミュレーション前の建物構造データ処理

  • 構造コードの取得:KeyValuePairAttribute key=100 を使用(fireproofStructureType は不可)
  • 木造度補正:防火造建物に自治体統計書の用途別木造率(木造度 w)を付与し、C = 10 − 9w で補正
  • 不明建物の補完:高さ閾値(≤9m / 9〜13m / >13m)で防火造 / 準耐火 / 耐火を推定
  • 自治体ごとの確認:木造率は自治体によって大きく異なる(世田谷77.9% vs 葛飾89.4%)

3.延焼シミュレーションの考え方

建物単位のネットワーク延焼シミュレーションを実装した。 延焼過程を ①建物の燃焼継続時間 B と ②建物間の着火時間 T の2要素に分離し、 建物ネットワーク上でDijkstra法により最短到達時間を算出する。

(1)燃焼継続時間 B ― 延焼源として機能し続ける時間

Bi = Bs × √( Ai / 100 )
 Bs:構造別基準値(分) Ai:建物面積(㎡) 基準面積:100 ㎡

構造基準燃焼継続時間 Bs根拠
木造 2階以下40 分上杉(1983)実大実験・全焼時間
木造 3階以上60 分同上(外挿)
防火造 2階以下150 分1997年実大実験・最盛期継続時間
防火造 3階以上180 分同上・倒壊時間
準耐火240 分東消式系推定
耐火延焼源にならない

(2)建物間着火時間 T ― 東消式系

Tij = ( dij × Cj ) / ( Yd × r(u) )

 dij :壁面間最短距離(m)
 Cj :着火側建物の構造補正係数(下表)
 Yd = 0.45 m/分 基準延焼速度(損保料率算定会/東京都1997式)
 r(u) = 0.048u + 0.822 風速補正係数(u:風速 m/s)
     → u = 6 m/s のとき r = 1.110

構造木造度 w補正係数 C = 10 − 9w
木造1.00(固定)1.0
防火造(専用住宅・世田谷区)0.7793.0
防火造(共同住宅・世田谷区)0.1178.9
準耐火0.25(固定)7.75
耐火0.00(固定)10.0(除外)

▲ 防火造の C 値は自治体統計書による用途別木造率から算出(§3 参照

ネットワーク構築の条件

  • 探索半径:壁面間距離 25 m 以内(理論的最大延焼距離 ≈ 20 m に安全マージン)
  • 除外条件:Tij > Bi(出火建物の燃焼継続時間を超える場合は延焼しない)
  • 視線遮蔽判定:採用しない(木造密集市街地では過剰作動するため)
  • 計算時間上限:360 分(6 時間)
  • 建物面積 < 10 ㎡ は除外(物置・自転車置場等)

4.ケーススタディ

データ:葛飾区 家屋実態一覧表(令和7年1月1日現在・葛飾都税事務所)/ 国土交通省 PLATEAU CityGML 葛飾区(uro 3.2)任意の出火建物を選び、順方向延焼シミュレーションを実施する。

  1. 対象建物IDを出火点に指定
    • source_id = "bldg_a1e7168a-bbef-xxxx-xxxx-xxxxxxxxxx" (←具体的なidを調べる)
  2. 対象範囲
    • まず中心建物から 300~400m範囲 (全体で3次メッシュ4つ程度(2㎞四方)選ぶ、等)
  3. ネットワーク作成
    • 各建物ポリゴンの壁面間距離を計算
    • 一定距離内の建物を延焼候補エッジにする
    • 構造分類で延焼時間を変える
  4. 順方向計算
    • 出火建物の到達時刻を 0分
    • 隣接建物へ最短到達時間を伝播
    • Dijkstra型で「何分後にどの建物へ到達するか」を算出
  5. 出力
    • 各建物に arrival_min
    • burned_60min, burned_120min, burned_180min, burned_360min
    • GeoPackage / GeoJSON
    • QGIS表示用スタイル

Pythonスクリプトを作成し、個々の建物のマスターcsvまたはGeoPackgeを作る。
Plateauダウンロードしたデータの中に、codelistというフォルダがあるので、それも確認するとよい。

GeoPackageを作成してくれているので、QGISにドラッグするだけで表示される

防火造からの出火シミュレーション